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「教育手法」の調査研究とNFLabs.研修への導入

こんにちは。NFLabs. 事業推進部 教育研修担当の塚越です。
この記事は NFLabs. アドベントカレンダー5日目です。

今回は、教育研修担当で実施している「教育手法」の調査研究、およびNFLabs.研修への導入について、取り組み内容をご紹介したいと思います。

教育研修担当では、2021年8月より「ジャーナルクラブ」という、いわゆる輪講形式のディスカッションの取り組みを開始しています。

取り組みの目的は、NFLabs.が提供する研修の品質向上、NFLabs.研修講師のスキルアップ、お客様への提案やビジネス化、としています。

「ジャーナルクラブ」では、あらかじめテーマを決めておき、教育研修担当のチームメンバー各自がテーマに沿った調査を行って資料にまとめ、その資料を元にチームに対してプレゼンを行います。他のメンバーはそれに対して質疑などを行い、ディスカッションを進めていきます。

輪講形式ですので、各自がプレゼンを行う順番と日程を決めておき、日々ディスカッションの結果を蓄積していきます。チームメンバー全員が一巡したらそのテーマに関しては終了とします。

今回は、その「ジャーナルクラブ」の中で「教育手法」をテーマとして取り上げ、調査研究を行いました。
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「教育手法」をテーマとすること以外には特に制約を設けない形で各自が調査を行いましたが、思いのほか興味深い内容が揃ったため、次のテーマを「教育要領」とし、調査した教育手法を利用して具体的な教育の要領を研究する、という形にしました。
チームで調査したものは以下のとおりです(参考文献も合わせて脚注に示しました)。

・アクティブラーニング*1*2*3
・反転授業*4*5
・発見学習*6*7*8*9
・「ドラゴン桜」の勉強法*10

これまでNFLabs.の研修は、基礎的な内容であっても研修の対面講義の中で説明や解説を行い(インプット)、それからハンズオンや演習など実際に研修生に手を動かしてもらう(アウトプット)、というスタイルで提供してきています。また、インプットに相当する講義を4割、アウトプットに相当するハンズオンや演習(発表も含まれます)を6割、という配分を基本とし、アウトプットを重視する形を取ってきました。

ですが、今回調査した反転授業を始めとする教育手法はさらに踏み込んでいて、研修の場ではそもそも講師でなく研修生を中心に据えます。

研修生には研修で扱う基礎的内容は研修に臨む前に資料等で学習してもらい、研修では講師がファシリテーターに徹して、研修生が主体となって発表・議論を行なったり、応用的・発展的な学習を行うことで理解の定着を図る、という形態を取るものでした。

そこで、NFLabs.で提供する研修についても主に反転授業の形態を参考とし、研修資料を読んだり動画を視聴したりして理解できるような内容であれば事前に研修生に学習してもらい、その分研修の場では研修生同士の議論・ディスカッションに時間を割く、という形態の導入を検討しました。

NFLabs.の研修にはさまざまなものがありますが、特に基礎的内容の講義を中心とした研修については、このような形態を取ることで学習効果の向上が図りやすいと考えています。

基礎的内容の講義を中心とした研修の場合、実践的な内容を扱う研修と比べて知識の習得が主目的となり、講師からの説明を聞く時間が多くなりがちです。そのような状況では研修生側が受け身になりやすく、積極的に学ぼうとする姿勢が弱まります。また、受け身な姿勢ゆえに、聞いてその場では理解したつもりでも後になってあまり身についていなかった、となる懸念もあります。
つまり、学習効果を向上させるためには、研修生が受け身にならず能動的に学習する姿勢を引き出し、学んだことが本当に理解できているかを確認し、理解できていないものの理解を定着させることが必要となります。
これは、反転授業を参考とした授業形態を取り入れることで実現できると考えられます。
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現時点ではまだトライアル的な位置づけですが、「企業IT環境」「Initial Access~Execution*11」という研修に対して導入を行いました。

これらの研修は、もともと基礎的内容の講義を中心としてトータル2日間をかけて行うものでした。
具体的には、一般的な企業で利用されるITシステム環境の典型的な構成を学び、そのコンポーネントとなるメールサーバやWebサーバ等のサーバ、Firewall等のネットワーク機器、IDSやIPS・WAF等のセキュリティ機器の機能と役割を学びます。その上で、業務上発生する通信の経路について考え、その環境に対してペネトレーションテストを実施する際の侵入ルートについて考えてみる、というものです。

これまでは、研修時間内で基礎的内容の講義を行いながら、通信経路や侵入ルートについて検討する演習時間を設けていたため、講義に時間を割かなければならない分演習やディスカッションのための時間はそれほど確保されていませんでした。

それに対して、今回は
・これまで講義で利用していた研修スライドだけでなく新たに作成した解説動画を含めて事前に提供し、事前学習として取り組んでもらう
・事前学習の中で課題を与える(事前学習の中で解くもの、研修で各自が解答を持ち寄るもの)
・研修では、講義は軽いおさらい程度でほとんど行わず、大半を課題に取り組む時間に割く
・課題は事前学習で与えたものだけでなく新たに発展的なものも出して各自取り組んでもらい、研修生同士の議論を促して理解を深めてもらう
という形態を取り入れて実施しました。

結果として、研修生からは
・事前に学習することで、講義内容が頭に入りやすい状態で受講できた
・知識の修得・共有・発表能力のすべてが網羅される形態でとても有意義に取り組むことができた
・解説等を聞く際に自身が気付かなかった点に対する「気付き」の感動が大きく印象に残ってより身に付きやすかった
など、全体として好意的な意見が得られました。

一方で、研修中はほぼ研修生同士の議論や講師に対する質疑応答などで占められるため、常に考え続けている研修生の疲労度が高くなる、研修生の理解度で議論や質疑応答の時間が変動し研修時間のコントロールが難しい、といった問題点も挙げられました。

このように、好意的な意見が多かった一方で問題点も挙がり、まだまだ本格的な導入に至っていない状況ではありますが、実際に学習効果が向上しているかどうかを研修生からの意見を交えて測りつつ、研修形態の改善と導入対象研修の拡大を図っていく予定です。

(終わり)

*1:ベネッセ教育総合研究所、アクティブ・ラーニングを活用した指導と評価研究 https://berd.benesse.jp/special/active-learning/

*2:萩原麻琴 et al. (2019) アクティブラーニング型授業の実践と評価、岡山大学教育科学専攻報告書_PBL活動概要-3 https://edu.okayama-u.ac.jp/~kyoukagaku/wordpress/wp-content/uploads/2020/04/2019%E6%95%99%E8%82%B2%E7%A7%91%E5%AD%A6%E5%B0%82%E6%94%BB%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8_PBL%E6%B4%BB%E5%8B%95%E6%A6%82%E8%A6%81-3_web.pdf

*3:文部科学省、アクティブラーニング失敗事例ハンドブック 「産業界ニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」 中部圏の地域・産業界との連携を通した教育改革力の強化 平成26年度 東海 A(教育力)チーム成果物 https://www.hedc.mie-u.ac.jp/pdf/ALShippaiJireiHandbook.pdf​

*4:澁川幸加(2020) ブレンド型授業との比較・従来授業における予習との比較を通した反転授業の特徴と定義の検討、日本教育工学会論文誌資料 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjet/advpub/0/advpub_44079/_pdf/-char/ja/

*5:愛媛大学理学部 反転授業ワーキンググループ(2017) 反転授業の実施方法と事例集 http://www.sci.ehime-u.ac.jp/EL_HP/files/2017-flip-class-manual.pdf

*6:NTTLS、人材育成Web コラム 人材育成の企画・立案 第9回 研修の内製化とインストラクショナルデザイン https://hr.nttls.co.jp/column/knowledge/step2/detail-09.html

*7:松岡路秀(1986) 発見学習による中学校社会科地理的分野の改善、新地理 34-3 https://www.jstage.jst.go.jp/article/newgeo1952/34/3/34_3_1/_pdf

*8:谷川幸雄(2002) 発見学習の基礎理論と実際、北海道浅井学園大学生涯学習システム学部研究紀要 2 pp.169-185 https://hokusho.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=685&item_no=1&page_id=13&block_id=17

*9:ikenaga(2021) 理科とブルーナーの発見学習、note.com https://note.com/ellegarden/n/na96fe7aedd49

*10:桜木健二(2021) 7日間で突然!頭が良くなる超勉強法【ドラゴン桜公式副読本】、SBクリエイティブ https://www.sbcr.jp/product/4815611453/

*11:MITRE社のATT&CK Matrix モデル(https://attack.mitre.org/matrices/enterprise/)で示されているTacticsとTechniquesを参考とし、初期アクセス~実行までのプロセスについて学ぶ研修