概要
- みんな大好き低レイヤ(USBケーブル)のお話です。
- 本記事では自称コーポレートITエンジニアの筆者が「見た目では判別しづらいUSBケーブル(Type-C)」を一生懸命用途別に仕分けます。
はじめに
この記事は、NFLaboratories Advent Calendar 2024*1 14 日目の記事です。
こんにちは、研究開発部 自称コーポレートITエンジニアの橋本です。
弊社は事業所で充電器やディスプレイの貸出をしています。
しかし、創業から5年が経過し、いろんな時期に購入した性能不明のUSBケーブルが増えてきました。
「お借りしたUSBケーブルだとディスプレイ映りませんでした!」なんてことも😱
巷では「Thunderbolt 4 *2 ケーブル最強説 *3 」の声も聴かれますので、今のケーブルを全て捨ててThunderbolt 4ケーブルに買い替えるのがシンプルかつ最強のソリューションかもしれません。
が、それだと仕事と称して面白そうな測定器で遊べないのでサステナビリティ *4 を標榜しているNTTグループの一員として良くないので、本記事では「筆者が一生懸命USBケーブルを仕分けをした話」を書いていこうと思います!
USBケーブルに関する基礎知識
USBケーブルを仕分けしていく前に、必要な基礎知識を記載していこうと思います。
注: 筆者はUSBケーブルの専門家ではありません。必要に応じてUSB-IF *5 等の一次情報をご参照ください。
用語説明
- USBホスト: 通信を制御する側(例: パソコン)。
- USBデバイス: ホストからの指示に従い動作する側(例: プリンタ)。
- USBコネクタ: Type-A(通称)、Type-B(通称)、Type-Cに大別される。
- レセプタ:コネクタの「受け側」部分、いわゆる「メス側コネクタ」。
- プラグ: コネクタの「挿し込み側」部分、いわゆる「オス側コネクタ」。
- USBケーブル: ホストとデバイスを繋ぐ。両端にプラグ(orレセプタ)を備える。
- eMarker: ケーブル内臓のIC。ケーブルに関する情報を応答する。
- Alternate Modes: USB Type-Cケーブルの高速通信線を用いてUSB以外のプロトコルで通信を行う(例:DisplayPort Alternate Mode , Thunderbolt 3 等)。
USBコネクタの規格
Type-A コネクタ
USBホスト側で利用されるコネクタです。
「USB 3.1 Standard-A」の奥側にUSB3.X通信用のピンが増設されています。
Type-B コネクタ
USBデバイス側で利用されるコネクタです。
「USB 3.1 Standard-B」は上側、「USB 3.1 Micro-B」は右側にUSB3.X通信用のピンが増設されています。
Mini-BはUSB3.X通信用のコネクタ規格が規定されておらず、USB2.0のみです。
Type-C コネクタ
ホストとデバイスどちらにも利用可能なコネクタです。
また、上下が自動で識別されるので反転して差し込んでも利用可能です。
ピンアサイン
Type-Cケーブルを識別する際に「ピンアサイン」と「ピンの用途」の知識が必用となるため、以下に概要を記載します。
- オレンジ色のピン: USB3.X以上の高速通信やAlternate Modesに利用
- みどり色のピン: 給電やUSB2.0の通信に利用
USBケーブルの規格(Type-C)
USB-IFのドキュメントに規定されているType-Cケーブルは「USB Full-Featuredケーブル」と「USB2.0ケーブル」の二種類のみ(※)です。
- USB Full-Featuredケーブル: 全てのピンを接続します。
- USB2.0ケーブル: 給電やUSB2.0通信に必要なピンのみに接続します。
また、以下の通り線長制限とeMarkerの要否が規定されています。
※両端がType-Cのケーブルは二種類のみですが、他にもType-AやType-Bへの変換が規定されています。
通信規格
USB3.X以降は「名称と通信速度」の関係がやや複雑です。
Genの部分で通信速度が決まるので、そこで見極めましょう。
給電(Type-C)
USB Power Deliveryという規格が定められており、最新のRevision3.2では最大240Wまで供給可能です。
- Fixed Supply: 電圧、電流を固定して給電する方式
- Standard Power Range (SPR): 最大100W。5Aでの給電は5A対応ケーブル要。電流(3A or 5A)、電圧(5V~20V)。
- Extended Power Range (EPR): 最大240W。EPR対応ケーブル要。電流(3A or 5A)、電圧(5V~48V)。
- Programmable Power Supply (PPS): 状況に応じて電圧、電流を変化させて給電する方式
詳細は割愛しますが、他にもQuick Chargeやベンダ独自規格等の多くの給電規格があります。
ディスプレイ接続(DisplayPort Alternate Mode)
USB3.Xに利用する高速通信線(TX+,TX-,RX+,RX-)とサイドバンド線(SBU)へDisplay Portの通信プロトコルを流して使用します。
高速通信線4レーン全てを使うモードと2レーンを使うモードがあります。
- 2レーン: 2レーンをDPとして利用(DP v1.4未圧縮では4K@60Hzの解像度)。同時にUSB3.XとUSB2.0の通信も可能。
- 4レーン: 4レーンをDPとして利用(DP v1.4未圧縮では5K@60Hzの解像度)。USB3.Xの通信は不可、USB2.0通信は可能。
参考ドキュメント
基礎知識をまとめる上で参考にした仕様です。
- Universal Serial Bus Type-C Cable and Connector Specification Release 2.4
- Universal Serial Bus Power Delivery Specification Revision 3.2 Version 1.1
- USB 3.1 Legacy Cable and Connector Specification Revision 1.0
- Universal Serial Bus Micro-USB Cables and Connectors Specification Revision 1.01
USB Type-Cケーブルの仕分け
方針
冒頭に記載したとおり、弊社が貸し出しているType-Cケーブルの用途は「充電」と「ディスプレイ接続」です。
基礎知識編で調査をした結果を元に以下の6パターンに仕分けをする事にしました。
仕分け方法
今回は手元にある測定器を使用して2つの行程で仕分けをしていきます。
工程1: 結線の確認
Treedix社のUSBコネクタケーブルチェッカーを利用して、「Full-Featuredケーブル」と「USB2.0ケーブル」を仕分けます。
工程2: eMarkerの確認
AVHzY社のUSB3.XテスターでeMarkerを読み取ります。
(給電規格や電圧電流等を表示してくれるすごいテスターです。が、今回はeMarkerの読み取りのみに使用します。)
仕分け結果
弊社の某作業部屋で見つけたUSBケーブル15本に対して仕分けを実施してみました。
パターン1 映像出力OK/給電60W以下: 1本
結線: 全て結線されており、「Full-Featuredケーブル」仕様通りの結線ですね。
eMarker: 3A表示のため、5A(60W超)は非対応。
パターン2 映像出力OK/給電100W以下: 4本(内3本は仕様外ケーブル)
結線: 全て結線されており、「Full-Featuredケーブル」仕様通りの結線ですね。
eMarker: 20V@5A表示のため、給電は100WまでOK。
なお、4本中3本は「Full-Featuredケーブル」仕様外の結線でした。
中途半端なケーブルはトラブルの元なのでこの3本は買い替える事にしました。
結線: RX1が非点灯のため、DP Alt Mode(4レーン)やUSB通信(Gen3x2等)は不可。
eMarker: 20V@5A表示のため、給電は100WまでOK。
パターン5 映像出力NG/給電100W以下: 10本
結線: 「USB2.0ケーブル」仕様通りの結線ですね(USB2.0ではTX/RX/SBUは不要)。
eMarker: 20V@5A表示のため、給電は100WまでOK。
パターン3,4,6: ゼロ本
該当ゼロ本
おわりに
何気なく利用しているUSBケーブルですが、調べてみると数多くの仕様から成り立っており、非常に奥深い事が分かりました。
普段はSaaSを触っている事が多いのでたまには息抜きで低レイヤを調査するのも楽しいですね♪
*1:https://adventar.org/calendars/10492
*2:https://www.intel.co.jp/content/www/jp/ja/architecture-and-technology/thunderbolt/thunderbolt-4-vs-usb-c.html
*3:「最大100W給電 / USB3.2&4互換 / Thnderbolt4通信 / ディスプレイ接続」 が全て使えます